トロッコ問題と情報学(link)

○トロッコ問題とは何か

ココログニュースの記事からたどって、Wired Visionというニュースサイトで倫理学の有名な問題が紹介されていることを知りました。具体的には記事中の以下の部分です。

5人が線路上で動けない状態にあり、そこにトロッコが向かっていると想像してほしい。あなたはポイントを切り替えてトロッコを側線に引き込み、その5人の命を救う、という方法を選択できる。ただしその場合は、切り替えた側線上で1人がトロッコにひかれてしまう。

多くの人は遺憾ながらもこの選択肢をとるだろう。死ぬのは5人より1人の方がましだと考えて。

しかし、状況を少し変化させてみよう。あなたは橋の上で見知らぬ人の横に立ち、トロッコが5人の方に向かっていくのを見ている。トロッコを止める方法は、隣の見知らぬ人を橋の上から線路へ突き落とし、トロッコの進路を阻むことしかない。(中略)この選択肢を示されると大抵の人はこれを拒否する、とBanaji氏は述べた。

人間の倫理は非理性的か:「トロッコ問題」が示すパラドックス
http://wiredvision.jp/news/200811/2008111121.html

この問題、上の記事では架空の問題であるかのように扱われていますが、実際には医療倫理などで実際に問題になる状況を表しています。たとえば、救急車で運ばれてきた重症患者を受け入れると他の患者が犠牲になるというときどうすれば良いかという問題、国民全体の医療費や医療資源が限られている中、高額な費用を要する難病の患者への保険診療を認めるべきかというような問題があります。

○「トロッコ問題」の解釈

さて、記事では、この問題をカント主義と功利主義という単純化された対立の構図で理解した上で「パラドックス」と結論づけていますが、カント主義や功利主義に詳しい人の中には、これに違和感を感じた人もいるのではないでしょうか。結論から言うとこれは論理的に間違いであり、アンケートの結果に「パラドックス」などありません。なぜなら、この問題は論理的に以下の二つの問題に分割されるからです。これはどちらも生命倫理で一般的な論点です。

続きを読む